新会社法基礎養成講義 【第3講】 法人格否認の法理について

こんにちは。皆様いかがお過ごしでしょうか?
政界では、大激震が起こっていますが、私は会社で毎日全く平穏な日々を過ごしています。
前回の第2回講義では、法人について様々なことを学習しましたね。そこでは、簡単に復習しますが、会社に法人格が認められると構成員個人と会社とが別の権利義務の主体となるために、それぞれが直接的な関係をもつことが基本的になくなるということを学びました。この制度は会社が現代社会で重要な機能を有しているという現状からの要請から認められるものであったことを確認しておきます。

今回は、会社に法人格が認められると構成員個人と会社とが別の権利義務の主体となるために、それぞれが直接的な関係をもつことが基本的になくなるということを貫いて本当によいのであろうか?というところから出発していきましょう。

たしかに、前講のように様々な理由で認められた法人と個人の分離ですが、これを形式的に貫くと、正義や公平に反する不当な結果になる場合があることが指摘されました。
会社の存在を全面的に否定するわけではなく、また会社を解散させるのでもなく、会社が法人であるという存在は認めながら、特定の事案の処理にあたって会社の独立性を否定して、法人格がないのと同様の取扱いをし、その背後にある実態を会社と同視しようとする、これが法人格否認の法理です。

それでは、次に法人格否認の法理のケースをみていきましょう。
法人格が否認される場合として2つのケースがあるとされています。

まず、「法人格が全くの形骸に過ぎない場合」に法人格が否認されます。
これは、例えば、会社が実質的に個人企業である場合や、会社が実質上親会社の一営業部門に過ぎない場合です。
法人格が形骸化しているといえるための基準として、株主総会や取締役会を全く開催していないことや会社と役員の業務が混同していること、会社財産と社員財産が混同していることを判断材料にすることによって、本当に形骸化しているかどうかを検討します。

次に「法人格が濫用される場合」に法人格は否定されます。
これは、例えば、個人の取引上の債務を免れるために会社を設立するような場合などのケースがあります。
形式的にみれば、法人格はあるものの、それをうまく逆手にとって自己の利益を図ろうという意図がある場合です。

それでは、以上の2つのケースに実際に該当すると判断されたことにより、法人格が否認がされた場合には、どうなるのでしょうか?法人格否認の効果が問題となります。

これについては、当該事案の処理において、会社がその構成員から独立した権利義務の主体であることが否定されます。これには、会社の実体である個人に責任を負わせる場合と、個人の行為を会社の行為として取扱う場合の2つの場合があります。

法人格が否認されると、例え会社名義でなされた取引であっても、その相手方はその会社に請求をするのではなく、取引の背後にある株主個人の行為として責任を追及することができることになります。

最高裁でも、かなり昔から法人格否認の法理を採用することを明らかにしています。
その意味でも、裁判所のお墨付きをもらった理論なのです。

しかし、注意が必要なのは、このような法人格否認の法理は、必ずしも明文上の根拠が会社法上にあるわけではなく、あくまでも一般の法原理から認められるものです。あえて条文上の根拠を示すとすれば、民法1条の「信義誠実の原則」が根拠となるくらいでしょう。法人格否認の法理には、明確な条文上の根拠が存在しないのです。
そのために、法人格否認の法理は、必ずしも真正面から認めてよいというものではなく、会社と個人が別個の権利能力を有するという原則を貫いた場合に、その結果の不都合性が特に大きいような場合に限って認めるべきだと考えられていました(補充性)。

ここで、私がいま「考えられていました」とあえて過去形を使って説明したのは、ちょっと理由があります。
というのも、その理由とは、新会社法制定によって、今後はこの法人格否認の法理が認められる範囲が広がることが予想されるからです。
どの部分の改正において変化するかというと、新会社法では従来の旧商法下で認められていた最低資本金制度が廃止されることになりました。これに対しては、当初、最低資本金を廃止してしまうと財政基盤が不安定な会社が多くできてしまうことが予想されるために、これらの会社と取引に入る相手方を不当に害するので最低資本金制度を撤廃すべきではない、という批判がありました。

しかし、この批判に対しては、以前まで補充性ということで消極的にしか使用されていなかった法人格否認の法理を柔軟に使用することによって、このような場合には取引相手を保護するために財産的基板のない会社の法人格を否定して、株主や経営者個人に対して責任追及することを認めることが可能であるので最低資本金制度を廃止しても取引の安全を害することはないのでこの批判は当たらない、といった反論がなされています。

このような説明が一般的にされていることを考えると、今後は法人格否認の法理が登場してくる度合いが増すことが考えられます。
もちろん、あまり何でもかんでも法人格否認をすることは、そもそもの原則と例外をひっくりかえすことになるので、慎重にすべきだといえるでしょう。従来よりも、若干広がることになるのではないか、という程度だと思います。
バンバン法人格否認が使用されるということは、考え難いです。

これで、今回の講義の目的を達成することができましたので、終了したいと思います。

「法人格否認の法理」は重要な論点ですのできちんと復習してくださいね。

それでは、また次回の第4講でお会いしましょう。失礼します。


 掲載:きくいけ博士…企業法務部に所属し法律問題、労働問題、判例分析に取り組む

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